もう歩き回ることは

出来ない。とすれば、観劇とか映画とか、座って見るものに限る。やっぱり日比谷線で六本木に戻って、東銀座で歌舞伎を見るか。今日の演目はなんだろう・・・そう思って新橋演舞場に行くと、おお!噂の市川猿之助市川中車の襲名披露公演ではないですか。これは見ないテはない。そう思ったけれども、残念ながら全席売り切れだった。

ではどうしようと思って東劇に行くと、「シネマ落語 落語研究会 昭和の名人」というのをやっていた。だいぶいい。これで行こう!とチケットを買ったが、次の放映時刻まで少し時間があったので、ビル内の本屋へ。場所柄、歌舞伎や演劇関係の本が多かったのだが、散々迷った挙げ句、橋本徹関係の文庫を買った。どちらかというと、アンチの本である。うちの次姉は彼に心酔しているので、ちょっと目を覚ましてやらねば。私も彼の素晴しさは分かるのだが、些か強引過ぎるのが気になるのだ。

「シネマ落語 昭和の名人」の方は、六代目笑福亭松鶴『高津の富』、五代目柳家小さん『試し酒』、六代目三遊亭圓生『猫忠』、五代目桂文枝『猿後家』という演し物。

まず松鶴。この人の落語を聴くのは初めてだが、さすがに名人と言われるだけあって、スケール感があって素晴しかった。正直、上方落語自体、滅多に聴いたことがなかったのだが、何となく抱いていた上方の印象を覆すような、格調高い芸だった。

次は小さんだったのだが、この頃には日中歩き回った疲れが出て来たのと、小さんはこれまで何度か聴いているけど好きではないので、眠ってしまった。勿論、好きではないと言っても、この日の演目が良かった可能性はあるんだけど、とにかく寝た。

収穫だったのは、六代目三遊亭圓生の『猫忠』だった。なんだかスゴイものを見ちゃったなの感あり。感動した。私がこれまで見たり聴いたりして感銘を受けたのは、十代の頃、あれは多分偶然ラジオで聴いた古今亭志ん生と、テレビで見た立川談志だが、三人目はこの人だな。なんだろう、この余裕。高座なのに自分のうちにいるみたくリラックスしている。会話の巧みさと言ったら天下一品だし、猫が変身する時の歌舞伎のような芝居っぷりも凄かった。こんな落語、初めて見た。いやぁ〜、今日ここに来て良かったぁとしみじみ思った。桂文枝『猿後家』も良かったけど、圓生のお陰でカスんじゃったな。

そんなこんなの東京弾丸巡りで、とっても疲れたけれど楽しかったなぁ。