久し振りの夜桜だった

市内のホテルで職場の催しが始まるまでの間に、同僚二人と川縁で満開になった桜を見て歩きながら、初めて夜桜を見た時のことを思い出していた。

あの時は、なんとも言えない哀しい気持ちだったな。ああ、とうとう桜まで青空の下で見れなくなったのか。この人はなぜこんな哀しい花見をさせて平気なのだろうか。夜桜など風流でもなんでもなくて、人目を忍ばねば桜すら見られない人たちがひねり出した苦肉の策に過ぎないのではないか、と。口では「綺麗ね…」と言いながら、心は重く沈んでいた。

今日の夜桜はそんな私のかつての感慨をよそに、無邪気な春のイベントとして楽しむ人達で一杯だった。そうしてなんの後ろめたさもなく眺めるならば、なるほど夜の桜も美しいのだった。

昼間は姉と母の墓参りに行った。命日だったのだ。葬儀の日、火葬場へと車で向かう道すがら、そぼ降る冷たい雨に桜の花びらが散乱しているのが悲しかった。

かと思えば、母が亡くなる少し前に、知り合ったばかりの東京の友人が病死し、やはり葬儀場に向かうまでの車窓から青空に映える満開の桜並木が見えたけれども、それはそれで悲しいのであった。

要するに、桜の花ってどうしても悲しくなるのね。美し過ぎるし、はかないからね。こういう時、ハイクのひとつでもヒネり出せれば、その哀しささえ愉しめるのかも知れないのですけれどね。