久し振りに図書館に行った

特に何を借りようと思って行ったわけではなく、背表紙を眺めてみて、読みたいと思うものがあれば借りるつもりだった。

最初に手に取ったのは、久生十蘭の「従軍日記」。橋本治の解説を少し読んでみたら興味が増したので、まずこれを借りることにした。久生十蘭は18〜19歳ぐらいの頃に「海豹島」と何か二つ三つ、作品を読んだ。面白かったという記憶はあるのだけれど、内容はまるで憶えていない。当時はこの人とか夢野久作とか中井英夫とか、いわゆる幻想文學・怪奇文學と呼ばれる小説にハマっていた。当時知り合った人の影響だな。ちなみに橋本治桃尻娘シリーズは大好きだった。

次に、古今亭志ん生の「志ん生芸談」。これも面白そうなので借りることにした。

三冊目に、二谷友里恵さんの「楯」を手に取った。彼女のことは子供の頃からテレビで見ているし、東京に住んでいた頃、アパートが彼女の実家に近いところにあったせいで、まだ大学生だった彼女を何度か見かけたことがあり、勝手に、特別な親近感がある。バスでも二度ほど乗り合わせたことがあった。ブランド物をこれ見よがしに身につけている女子大生と違い、あれだけ綺麗でスタイルも良い人なのによくよく見ないと彼女だと分からないくらい地味な格好だった。スッピンで、誰かのお古かと思える着古したダッフルコートにマフラー、ちょっとだけ膝上のスカートとハイソックスといった、もはや前世紀の遺物と言えるほどに清楚な印象。これぞ本物のお嬢様、といった感じである。バスの中で文庫本を読んでいたので、そっと後ろから窺ったら、向田邦子の作品だった。それでまた感心した。

「楯」の中身は彼女の離婚にまつわる話だということは分かっていたので、そんなものを借りるのもどうかなと思ったのだが、斜め読みをするにはあまりにもしっかりした文章だったので、やっぱり借りることにした。

正直、やはりこのテの話は読んでて辛いものがある。夫婦により理由は違っていても、色んなことが積み重なって離婚に至るまでの道程で感じる気持ちは同じだからだ。彼女は時にシニカルだとしても非常に冷静に書いており、信頼できる人柄だということも充分に分かるのだけれど、それでもやはりどこか思い込みが過ぎるのでは、という気がしてしまう。病的なまでに相手を疑ってしまう気持ちは、自分もよく分かる。でも、所詮この種のことについての「真実」は薮の中なのではないか。

それにしても可哀想なのは子供さんだ。親が離婚したことで学校で級友から「りこん!りこん!」と囃し立てられたという件や、親が有名人であるために日舞の発表会の写真をデカデカとスポーツ新聞に載せられた話など、全く胸が塞がれる思いだ。有名人だからといって捏造記事を書きまくるメディアの滅茶苦茶ぶりにも、呆れるばかりだ。

それでも、離婚にまつわる話は他人に納得してもらうのは所詮無理なのだ…といったら身もフタもないか。