正月二日の東京は

晴れ。一年の半分以上曇天と思われる当地から、とにかく晴れた空が毎日見たくて東京に移り住んだ若い日の気持ちを思い出す。今年は当地も雪こそ降っていないが、曇天には変わりないから、やっぱり東京に来て良かったと思う。晴れているだけではなく、二日も三日もとても暖かく、コートを着ていると汗ばむくらいだった。

二年続けての正月の上京は、昨年東京駅に着いた時、たまたま皇居の一般参賀に向かう人たちを見て、あ、それもいいなぁ、来年はワタシも皇居に行ってみたい…と思ったからなのだった。特に今年は、昨年の陛下の退位にまつわるお言葉もあり、やはり一度ぐらいは行っておかねばと。しかし、同じ思いの人たちは沢山いて、特に今年は東京駅に着いたのが9時半過ぎと遅かったので既に皇居に向かう人がわんさかいた。一応はワタシも連なってはみたのだが、やはりとても無理だと途中で断念してしまった。まぁ、トイレ関係の事情もあったのだが。どういうワケか、ここ半年ばかりひどい便秘なので医師に相談し薬を飲んでいるのだが、そうするとところかまわずというか、んもぉこんな時に?というタイミングでトイレに行きたくなってしまうのです。

漫才の始まるのが13時半からなので、とりあえず日比谷のホテルに行って荷物を預けてから、有楽町駅近くの落ち着いた喫茶店に入って時間を潰した。前回上京した時に友人の好みで入った喫茶店が軒並み、まぁ年配向きなのかコーヒーがやたら高い店だったのだけれど、結果的にはそれがやはり落ち着いていて良かったので、今回もそれを求めてみた。とは言え、特別香り高いコーヒーでもなく、ケーキも見た目ほど美味しくなかった。これなら当地のケーキ屋の方がうまいぞと思いながら食べた。

山手線で新宿に着いてからも入場時間まで少し時間があったので、ルミネ内を少し回った後、小田急のレストランで昼食をとってから会場に入ったのだが、ワタシの席は前から二番目の中央寄りだった。う〜む、一度でいいからあらしの皆さんをこれほど近くで見たかったなぁと思った。正直、漫才の方々を近くで見ても、あぁテレビで見た人たちだなぁというダケで、大した感激はない(笑。

それにしても、お笑いをやっている人たちの層は厚い。テレビでのコンテストなどで結構色んな人たちを見ていると思うが、最初に登場したのはチーモンチョーチュウというややこしい名前の知らない二人組で、会場にも「誰これ?」的な戸惑いムードが漂う。聞けばともに30代後半に差し掛っており、一人は独身だがもう片方は子持ちの家庭人らしい。思わず、生活大丈夫なのか…と嫁さんの親のような気持ちになる。しかし、とっかかりはあまり受けなかったものの、話が進んで行く内に徐々に会場の人たちを掴み始める。最後は、やはり長いこと続けておられるだけのことはあるなぁという感じで終わった。面白かった。これなら何とか家族を養って行けるのだろうと安心する。

次が、とろサーモンだったかパンクブーブーだったか…正直、この人たちの印象はあまりなく、それほど笑ったオボエもない。で、次がおかずクラブだったか。彼女たちのことは勿論知っていたのだが、妙に演目が短かった気がする。前日、オカリナさんがしゃべくりの特番で原田さんとキスしていたのを見たばっかりだったので、妙に生々しく見えた(笑。

大吉・華丸はやはり大拍手ですごい人気者だというのは分かるのだが、いかにも漫才師らしいテカテカしたスーツを着ていなければ、ごくフツーの感じだ。ま、大吉さんなんかは元々サラリーマン風というか、ステキな課長さんみたいな感じだけど、華丸さんも案外シュッとしてる。演目はテレビで見たことのあるもので、それを楽しそうにやっておられるのを見て、「あぁやっぱり漫才師も大変だなぁ。こうやって同じ演目を、さも初めてやるみたいに話すのは本当に難しいかも」と改めて思ったりした。

よしもとが終わると、歌舞伎の夜の部を見るべく東銀座へと。今回の出し物のメインは松本幸四郎市川染五郎玉三郎などが演じる「井伊大老」だったのだが、これがあまり面白くなかった。というか、なんで正月にこんな地味なものを?と思ったのだが、それは隣席の人たち(女性)も言っておられた。朝早かったこともあり、正直少し寝てしまった。
次は「越後獅子」だったのだが、これは五世中村富十郎の追善狂言とやらで、わずか12歳で父・富十郎を亡くした一人息子、中村鷹之資(17歳)が立派に舞っていた。彼は丸顔なところがなんとなく亡き勘三郎をホーフツとさせるところがあり、新たなスター誕生の感があった。踊りも良かったが、やはり励ましも込めてであろうか屋号である「天王寺屋!」の声がとても多く、歌舞伎愛好家の方々の暖かさを感じる場面だった。

次の舞踊は玉様の「傾城」という演目だったのだが、これは上級者向きなのか動きが少ないのでワタシには鑑賞が難しく、期待したほどの感激はなかった。ヤヤ肩透かし…。
最後は染五郎愛之助、左団次などが演じる「松浦の太鼓」という赤穂浪士の討ち入りにまつわる話だが、これはなかなか面白かった。

昼食はリゾットだったのだが結構な量だったので、歌舞伎が終わってもあまり食欲がなかった。結局、有楽町に着いてから、ホテル近くのうどん屋でうどんを食べた。

翌日は浅草に行こうかなとも思ったのだが、上野公園の景色がまた見たくなったこともあり、上野の森美術館デトロイト美術館展に行くことにした。でも、国立科学博物館でやっている「世界遺産ラスコー展〜クロマニョン人が残した洞窟壁画」も面白そうなので、先に回ってみた。壁画は勿論すべてレプリカなのだが実物大で、人類の進化などについても併せて展示されていてなかなか興味深かった。
デトロイト美術館展の目玉はゴッホの自画像だが、マネ・ドガルノワールなどの印象派から20世紀のフランス絵画まで52点あったようだ。勿論、いずれもスバらしいのだが、小品を見ているとこれくらいならワタシでも描けるのでは…と思ってしまう(笑。一生に一度ぐらいは額に入れるような絵を描いてみたいものだ。ま、完全にリタイアしてからだな。

完全にリタイアしたら、それこそまた東京に1〜2か月住んでみたいと思った。いや、その年になったら、もうそんなこと思わないのかなぁ。