友達に彼を奪われたことなら

私にだってある。…なんて、今となってみれば深刻に話すほどのことでもないな。でも、先日一年ぶりに会った友人は、その昔、恋敵だった。

恋敵、なんて言っても私の高校時代などノドカなもので、ほとんどが純愛路線というかプラトニックである。それでも私の知らないところで彼らが付き合っていたことを知った時は、脳裏に「裏切り」という言葉が点滅した。一方で、いや、これは仕方がないこと、という思いもあった。自分が逆の立場だったら、友人の彼には決して近づかないだろうとは思う。けれど、そうじゃなかった彼女に「女」としての一面を見て、むしろ羨ましいと思った。友人を排してまで人を好きになれるということが。彼が私を「捨て」て彼女を選んだのも、当然と思えた。

いずれにしろ、私と彼女の関係はぎくしゃくし出したし、彼が北の大学に進み、彼女と私が東京に来て再び親しい友人関係を回復した後も、彼の話題だけは暗黙のタブーだった。彼女は上京後も北の彼に何度か会いに行っているようだったけれど、その内に別れたらしい様子が見て取れた。別れまでに彼らがどの程度の付き合いだったのか、当時の私は知りたいと思ったけれど、曖昧なまま時は過ぎて行った。

30代になる頃には彼女は別の人と立派な家庭を築いていたし、私も結婚していたので、少なくとも私はもう北の彼のことにはこだわりがなくなっていた。けれど、彼女の中ではまだ彼は生きていたらしく、たまに会った時に同級生の話題にからんで彼の名前を出した時、つと席を立って行ってしまったので少なからず驚いた憶えがある。

先日会った時に娘さんの話になって、露骨な言い方はしない人だけれど、「今のコに、結婚前に男の人と旅行になんて行くもんじゃない、なんて教えようとしても駄目なのよ。『どうして?』って訊かれると、返事のしようもないしね」と言っているのを聞いて、ああ、元々彼女は virginity を大事にするタイプというか、そういう教育をされ、またそれを守って来たんだなと思った。そうよね、元々お嬢様だし。

ふ〜ん、親ってなにかと大変ね、などと相槌を打ちながら、そういう時代もあったんだなぁと、懐かしいような、鼻白むような、妙な感慨だったな。