銀座「鹿○子」のあんみつの話を

とある所でしていたら、急に食べたくなってきた。でも、この雨嵐では新幹線も飛行機も駄目だなぁ…って、明日は受診の日ではないか。どっちにしろ行けないな。

初めて鹿○子に行ったのは18歳の時だった。近くにあったジャズクラブでアルバイトをやっていた頃だ。当時は今お店がある表通りに近い場所ではなかったし、今みたいなべらぼうな値段でもなかった。バイト前に早めに銀座に着いてしまって、甘いものが食べたいと思った時にたまたま入っただけだったけれど、甘過ぎないし豆も美味しいなと思った。でも、どこにでもある普通の小さな甘味処で、大抵は空いていた。

銀座なんてオトナの場所で、バイトを辞めてからは滅多に行かなくなったけれど、たまに行くことがあれば立ち寄っていた。色んな街に遊びに行って、歩き疲れると甘味処であんみつを食べたけれど、どんな店で食べてもイマイチ銀座のあの店に叶わないように思った。鹿○子のあんみつは地味なので、一度で強い印象を残すわけではないのだけれど、いつの間にかじわじわと効いて来るのだ。

ところがその後、鹿○子は銀座一等の角地に移転することになった。新装開店まで散々待たされたが、ようやく再開になったと聞き、いそいそと駆けつけたは良かったものの、ショーケースであんみつの値段を確かめてめまいがした。私の記憶では当時も1200円台だったように思うのだが、今でもそれぐらいの値段ということは、記憶の方が間違っているかも知れない。いずれにしろ、平均的なあんみつの値段の倍以上であり、いくらなんでもこれはヒドいと思い、入るのを止めたのではなかったか。とにかく、酷く落胆しアタマに来たのを憶えている。素朴ゆえに美しく、愛想の良かった近所の女子高生が、急に濃い化粧をしてブランド物で身を固めて、アンタ誰?と言って来たような淋しさと驚き…。

冗談じゃない、あんみつが1260円(テキトー)だぁ?もっと安くて美味しい店を探してやるっ!と、フラれた腹いせに私のあんみつ行脚が始まった。しかし、どの店のどのあんみつも、既に舌が肥えてしまっているワタシを満足させるには至らなかった。銀座の老舗ならもっと美味しい所があるのでは、と当初の「安くて」おいしいあんみつを見つけるという目的からも外れて、可愛さ余って憎さ百倍「打倒、鹿○子!」となっていたのだが、どの店もなんだか甘ったるいばっかりでいけない。

長い抵抗の後、結局泣く泣く新生鹿○子で久し振りにあんみつを食べた時、負けたと思った。高い料金を払っても、やはりここで食べるしかないと思わせられたのだ。何が違うって、豆だけではなく寒天の味なのか固さなのか、とにかく他の店では味わえない素朴で自然な味わいがあったのだなぁ。

以来、田舎に戻ってからも、たまに上京して甘い物が食べたいときは必ず立ち寄ってしまう。でも、一昨年に行った時、味が落ちてたのでガッカリした。製法自体には変わりはないのかも知れないし、たまたまその日の出来が悪かったのかも知れず、私の味覚が狂っていた可能性もあるので断言はできないけれど。もう昔の味を味わうことは出来ないのだろうか、それを確かめにまた行ってみたい。

でも、あんみつ以上に、そうめんの汁がなぁ…。