とある人の見舞いに行った

県外で、ハイウェイに乗ってからも一時間はかかるところにある病院だ。久し振りの高速なのでちょっと緊張したけれど、終わってみるとどうということもなく、これからもこうして車で時々遠出しようかなと思ったりした。

丁度、昼食時に着いた。というか、昼食の様子も見たくて間に合うように行ったのだけれど、約三ヶ月の間に彼女は自力で食事が摂れなくなっていた。若い看護師の全介助で食事する様子を少し離れて見ていると、看護師は一刻も早く済ませたいためか、本人に何も聞かず飲み込むが早いか次々と無言でお粥やおかずをスプーンで口に運んでいた。他にも何人かそうして看護師介助で食べている人がいたけれど、どの患者も看護師もほとんど無言だった。

食堂にはテレビが置いてあり、丁度WBCの日韓戦をやっていたので次第に若い看護師は気もそぞろになっていた。なんだかいたたまれなくなって、途中で介助役を交代してもらった。小さい声で彼女に、「次に何が食べたいか聞いてくれなきゃ、美味しくないでしょ?どれがいい?」と訊くと、彼女は急にわっと泣き顔になった。まぁ、元々非常に涙もろい人なのでいつもいつも同情するとは限らないのだけれど、思い通りにならない体を抱えて、看護師さんも忙しいだろうからと文句も言わずに餌を与えられるように食事をしている普段は気の強い彼女を見ると、さすがの私も不憫で涙が浮かんで来た。

でも、この病院ばかりではないんだよなぁ。老人介護施設だって、大抵そうだ。ミキサー食なんて、見ても何だか分からない状態で「はい、あ〜んして」なんて言われても困るのである。なんでコミュニケーション取りながら、安心して食べてもらうことを考えないのかな。体の自由にならない人にとって、食事はたった一つの愉しみかもしれないのに。

家族との折り合いが悪く、もう家には帰らないと言っていた彼女が急に自宅に戻るというので慌てて段取りをつけに来たのだけれど、長い病院生活の中で思い通りにならないことが色々あったのだろう。病気にしろ家庭問題にしろ、何かと難しい問題を抱えている人だが、こうなったら全力で支えて行くしかない。

自宅に戻ってから、「歌おに」の最終回までを見た。最後まで、面白いのかどうか分からなかったけれど、大野くんの演技に不満はない。ドラマで健太が言ったように、誰しも必ずしも思い通りの場所に立っているわけではないけれど、その場所を最大限に生かし切ることで次のステップが見え始めることもあるのだろうな。いつもだとハテナと思える理屈みたいだけど、今日は素直に受け取れた。いいんだか悪いんだか分からないけどね。