キヨシローが亡くなった

今朝、新聞で訃報を目にした時は思わず「嫌っ!」と声を出してしまい、姉を驚かせてしまった。

正直、いつかはこんな日が来るのではないかとは思っていた。でも、ファンにとって悪い意味での「いつか」は、いつの間にか打ち消して忘れ去っているものであり、事前に入院したとか危篤とか知っていればともかく、いきなりの訃報はショックだった。昨年「完全復活」ライブを行ったというから、案外大丈夫なのかなと思えた時期もあったし。今日は車で外出していたのだが、ふと彼のことを思い出しては涙が浮かんで来た。車中はずっと、先日買ったトライセラの2枚組ベストを聴いていたのだけれど、彼らにとってもRCは心の支えみたいなところはあったのではないかと思う。

初めてキヨシローの歌を聴いたのは、確か自分が19ぐらいの頃、東京の姉のアパートでラジオから流れてくる「キミかわいいね」だった。なんて意地の悪い、でも胸のすくような歌詞と独特の声の出し方歌い方で強烈な印象が残った。私は当時からジャズ一辺倒で、フォークだのロックだのにはほとんど興味がなかったのだけれど、この曲と泉谷の「春夏秋冬」と遠藤賢司の「カレーライス」の三曲は、いいと思った。

実際にキヨシローを見たのは、まだチャボが入っておらずロックっぽくなかった頃だ(77〜78年頃か)。男友達のH氏がRCのファンで、すごくいいから見に行こうよと誘ってくれた。「キミかわいいね」以来、彼らの動向を知らなかったので、へぇ〜まだRCって活動してたんだねという感じで、渋谷の屋根裏というライブハウスに二人で行った。初めて見るキヨシローは長い髪を後ろで束ねていて、ジャズのプーさんをちょっと小汚くしたみたいだな(プーさんは、あれで結構お洒落なので)と思った。その頃には徐々に人気が出始めていたのか、けっこう人が入っていたので驚いた。立ち見も居たかも知れない。我々の席は、丁度真ん中ほどではなかったか。

最初に「よォーこそ」を歌ったのだが、そこでまずぶっ飛んだ。やっぱり彼は初めて聴いた時の印象そのままに、風刺的で、いかにも「お前ら、こんなところにノコノコやって来てヒマな奴らだな」という毒に満ち満ちていた。完全に観客をコケにするような、それこそドSの歌い方なのだが、観客は皆ドMとなってそんなキヨシローを享受しているのだった。曲は「ボスしけてるぜ」「指輪をはめたい」とか「夜の散歩をしないかね」とか、勿論「雨上がり〜」もあったが、とにかく、この日のRCは毒だらけで卑猥で、かと思えば妙に繊細で、隠喩に富んでもおり、私はいっぺんでこのバンドが、というかキヨシローが好きになってしまった。

その日は丁度レギュラーのギタリストが辞める日だったようで、何度もその人を紹介していたのだが、名前は思い出せない。キヨシローはギターとエレピを弾いたが、ギターはけっこういいなと思った。でも、なんと言っても歌だ。あの喉から絞り出すような声の出し方は決して自然ではないのだろうけれど、あれほど彼の歌の意図を効果的に伝える歌い方はないのではないか。「スローバラード」なんか、他の人は歌えないのではないかと思う。

ライブが終わって、また行きたいなとも思ったけれど、あまりにも魅力的だったので迂闊に何度も行けないような気もした。その後、彼がパンクバンドみたいに髪を短くし化粧をして話題になり、売れ始めて、ああ良かったな、聴かれるべきバンドだよねと心から嬉しく思ったけれど、大きなハコで歌うようになって聴いた「よォーこそ」はまるで毒が抜けていて、それは仕方ないことなのだろうけれど、ちょっとガッカリしたのを憶えている。まぁ、本当に仕方がないんだけどね、彼自身、本当に来てもらって感謝の気持ちが自然に大きくなったんだろうし。

私自身が歌の仕事をしていた頃は、よく共演していた楽器の人にたまたまRCに近い人が二人いて、その一人から、そんなにファンなら会わせてくれると言ってもらったこともあったが、会うことはなかった。色んな裏話も聞いたが、やはり星は遠くにある方が良いのだ。

最後に生で聴いたのは、もう20年近くも前になるのだろうか。武道館だったか西武球場だったか…チャボがバンドメンバーとしてでなく、ゲストとして出ていた。若い人が沢山来ているので驚き、もう私のようなトシの者が来る場所じゃないんだなと思った。今から思えば、当時でも充分に若かったと思うし、実際には彼のファンは同時代の人も大勢いると思うけれど、なんだか行き辛い雰囲気があったのだ。あれなら、このトシでも嵐のコンサートの方がよっぽど行き易い。

生では聴かなくなっても、色んな場所で流れてくる彼の歌を聴く度にハッとさせられることが多かった。特に離婚問題で辛かった時期に、たまたま入ったコンビニで彼の歌う「自由」を聴いて、色んな意味でストンと腑に落ちるものがあった。歌でものの考え方まで影響を受けるなんて、すごいことだ。

アルバムは色々買ったけれど、最終的には「ラプソディ」でトドメを刺すな。「ブルー」もいいけれど、「ヒッピーに捧ぐ」などは聴いてて辛過ぎる。