伯母は90歳を

とうに超えていたが、長患いすることもなく前日まで元気だったらしく、早朝眠るように床の中で息絶えていたというから、まさに大往生である。この度の津波であっという間に流されて、遺体すら跡形もなく天に召された方もいることを思うと、本当に幸せな死に方だと思う。

伯母は母の姉だが、幼い頃からかなり負けん気の強い人だったらしく、母は嫌っていた…というわけでもないだろうが、あまり良く言うことはなかった。金の亡者だとか、世間体ばかり気にするとか。実際、姉達が若い頃に何度か縁談を持って来てくれたことがあったが、相手の人間性などよく知りもしないのに、土地をいくら持っているとか資産があるというだけで薦めてくるような人だった。また、財産をなるべく他人に渡したくないがために姉達を彼女の息子達に、つまりいとこ同士で結婚しないか、などと言って来ることもあり、悪気はないのだが、ちょっと困ったオバさんだった。

それでも歳を重ねるにつれ、欲の張った表情も薄れ、よく出来たお嫁さんと一緒にたまに家に訪ねて来てくれる時は、先に亡くなった私たちの母の思い出話をして涙ぐんでいる、どこにでもいるお年寄りの姿だった。

小学5年生の時だったか、夏休みのかなりの期間を伯母の家で過ごしたこともあった。一年上の従姉がいて、仲良くなった。伯母の家では夏はかき氷を店で出していたのだが、それがとても美味しく、お腹を壊さないかと心配しながらも、義伯父は一日に何杯も食べさせてくれた。茄子の冷えた味噌汁とか、トマトにウスターソースをかけるとか、自分の家ではしない食べ方を真似して食べた。

通夜の時も、葬儀の時も気丈にしていた従姉だったが、火葬する段になって俄に取り乱し嗚咽した。棺に取り縋ろうをするのを、娘が肩を抱きかかえ制止していた。葬儀場に戻るバスの中でも、嗚咽はずっと漏れていた。

亡くなった瞬間から伯母の魂は肉体から離れて従姉たちを見ている。若い頃、一度死に損なったことがある私は、それを知っている。だから肉体が朽ちることを、それ程悲しまなくていいんだよ。心の中で私は従姉に、そう話しかけていた。