築地本願寺を出て

東京駅に戻るにはまだ時間があったので、一旦銀座に出た。まだ9時頃だったので開店している筈もなかったのだが、銀座のどこかで甘いものが食べたかったのである。しかし、鹿○子や千疋屋をはじめとして、甘味処はやはりどこもまだ開いてなかった。仕方がない、やっぱり東京に戻ろうかと地下鉄方面に歩いていたところ、道路際でケータイを掛けていた些か派手ないでたちの二十代半ばぐらいの女性と何気に目が合い、呼び止められた。

聞けば彼女は原宿だの青山に何軒もチェーン店を持つ美容院の美容師で、ワタシの髪質は確かにボブに合っているが、襟足が少し重そうだからゼヒとも切らせて頂きたい、絶対可愛くしますから!インターンではないのでタダとはいかないけれど、半額にします(いつもは7000円もらっている)とのこと。あいにく時間がないのでと断ろうとすると、シャンプーしなくていいなら15分で仕上げると言う。正直、はとバスに乗るまではまだ少し時間が余っていたし、美容院には2週間程前に行ったばかりだったが襟足が思ったほどスッキリしなかったのがヤヤ不満でもあったので、やってもらうことにした。

美容関係の雑誌なんかほとんど見たことがないし、大昔なら原宿の有名美容院に行ったことも一度か二度はあったけれど、今はどんな店が有名なのかすら知らない。しかし、金のかかっていそうな内装や、銀座に支店を持っているところをみると本当に有名な美容院なのだろう。かといって、日曜の朝から客が来る程ではないから、呼び込みもしているというところか。

彼女のカット捌きは実に鮮やかで素早く、仕上がりも満足できるものだった。しかしワタシは旅行者であるから、本当はお得意様を増やしたかったであろう彼女には残念な客だったに違いないのだが、年に一回でもいいから来て下さいと名刺やら割引券やら色々渡されて店を後にした。

東京駅に戻ると、丁度はとバスの出発時間に間に合う頃だった。

まず靖国神社へ。着いてみると、自衛隊とおぼしき方達が丁度参拝に来ていた。ヘルメットは着けないまでも妙に礼儀正しい団体行動で、鳥居に向かってお辞儀をしたり、手や口を浄めておられる。そのまま彼らは本堂の方に参拝に行ったので暫く後ろを追いて行くような形になったが、なぜだか左手側に報道陣がカメラを持って控えていた。これは何かあるかなと思い、参拝は後回しにすることにして、とりあえずというか本当はバスガイドから「時間が少なくて廻り切れないから」と禁じられていたのだが、どうしても遊就館を見ておきたくて、そちらの方に急いだ。

遊就館の入り口。こんな所にも剛力ちゃんが。売れっ子だねぇ。入ってみて気づいたのだが、私はそれまで遊就館というと、いわゆる靖国問題で取り沙汰されているような大東亜戦争(太平洋戦争)の戦没者に関する資料や写真が主だと勘違いしていたのだが、実際には幕末維新期の動乱からの豊富な資料が展示されていたのだった。確かにこれでは、40分という時間ではまわり切れない。外では右翼の宣伝カーが大音量でなにかガナリ立てているのだが、ときどき「このヤロー」と聞こえる以外は何を言っているのか全く分からない。まだかまだかの思いで、漸く順路最後のコーナー「靖国の神々」(祭神となった戦没者の写真や肖像画の一部が展示されている)に着いた頃には、バスの集合場所に戻らねばならない時刻になっていた。

皇居周辺でジョギングをする人達を追い越しながら国会議事堂へ。議事堂には中学の修学旅行で来たような気もするが、中まで入ったかどうかは憶えていない。赤い絨毯を踏んだような気もするのだが・・・・。

議事堂の集合場所で、エレベーター利用派と階段昇降派に別れる。日頃から階段派のワタクシは若い人達に混じって案内人の話を聞きながら衆議院議場まで歩いたが、通路の壁は沖縄産の珊瑚石灰岩で、中には化石も混じっている珍しいもの。他にも大理石など様々な高級な石が使ってあるという。通路に敷き詰められた4kmにわたるという絨毯も厚手の高級なもので、耐用年数を考えると却って割安だという説明も納得できないではないが、贅を極めている感がある。大正から昭和初期にかけての建築、しかも天皇陛下や皇族方が臨席する機会があることからそれは当然のことだったのだろうが、庶民の税金で建てられたことを思えば、溜め息が出る。天皇の御休所などは総檜の本漆塗り、さらに壁には、遠目に見ると鳥(鳳凰?)が舞っている高級な日本画のように見えるのだが、実は刺繍だというから恐れ入る。とにかく、総てが高級な資材で建てられてあるのだ。こんなところに日常的に出入りしていると、自分が高級なニンゲンのように勘違いし始めても、不思議ではない。

衆議院議場は傍聴人席から眺めてみると意外に小さく見えるが、実際にはかなりの大きさのようだ。中央広間は4階吹き抜きで、窓や天井にはステンドグラスが嵌め込まれている。そして、初代総理大臣である伊藤博文板垣退助大隈重信銅像が三方に立っているが、四方目は台座のみで銅像は立っていない。理由には幾つか説があるようだが、その一つとして、四方目の方角に銅像を建てると皇居に尻を向けることになるからというのもあるらしい。

それにしても、私が生まれて以来、総理大臣の再任というのは見たことがないけれども、パンフレットを見ると初期の頃の総理は伊藤博文の4回をはじめとして、桂太郎の3回など、再任・再再任が多かったのにビックリ。でも、良い政治または面白い政治を行った人はもう一度選ばれても良いわね。むしろ、申し合わせたようにみんな一回こっきりで終わるという方が、不自然な気も。

議事堂を出て集合場所に戻るまでに通った前庭には、各都道府県からその地方を象徴する木が植えられてある。山形ならさくらんぼ、北海道なら赤エゾマツというように。

東京駅近くには、今上天皇ご成婚で作られ、皇太子の結婚で整備されたという和田倉噴水やら、ご成婚の為に特別に作られた道路などがあることを知り、また税金のことに思いを馳せる。こうした贅は皇室の方々の希望とは別に勝手に進められて行くのだろう。先日亡くなられた髭の殿下が、出来るだけ墓を簡素にと希望されたのに、結局2億近い金額が葬儀や墓所にかけられるというのは、なんだか納得が行かない。誰がそんなことを望んでいるのだろう?

はとバスを下りると再び銀座に向かい、鹿○子で昼食を取ろうと思ったけれど、ソーメンが1,300円ぐらいするのでアホらしくなり(不味い可能性もあり)、向かいのハゲ天で小さい天丼(といっても、実際に出てきたものは決して小さくなかった)を食べてから、あんみつだけ鹿○子で食べた。やはり些か甘過ぎたけど、美味しかった。黒蜜をかけなきゃいいのかな。