もう一冊、本の話

だが、本といっても沢木コータローがフジケイコに対して行ったインタビューを活字にしたもので、「流星○○○」というタイトル。やっぱり、ヒカルが活躍しだすとどうしてもフジケイコに思いを馳せてしまうのは、リアルタイムで彼女を見ていたせいなのだろう。この本の前にも、彼女が歌手として活躍していた頃に、なぜか田原ソーイチローのDVDの中で、とあるエキセントリックな女性のインタビューに珍しくミニスカート姿で辛抱強く応えている彼女を見たばかりだった。「流星〜」の方は、沢木と彼女が交わした言葉以外は一切、たとえば「(笑)」とか、「…と彼女は苦笑いした」とかいった状況説明や聞き手の感触なども全く排して書かれてあるのだが、DVDで彼女の肉声を聞いていたことで、どんな感じで話していたかが手に取るように分かる気がしながら読み進めていった。

密林で「流星〜」のカスタマーレビューを見ると多くの人がこの本を絶賛しており、ワタシもほとんど同意見なのだが、ヒカル(父子?)の方は、インタビューが何十年も前に行われたのにその時には出版せず、母親の死後間もなく世に出したせいで印税稼ぎと思ったのか、それとも酒を酌み交わしながらのインタビューだったためか、恋愛や結婚にまつわるエピソードも結構あるのが許せないのか、沢木を訴えようとしている(か、もう訴えた?)らしい。レビューの中には、この本を称賛するあまり、そんなヒカル父子を非難する人すら居る。沢木とフジの仲が噂されたこともあったというし、なんだか真相は「藪の中」然としている。

沢木の本は昔、たぶん「深夜特急」だったと思うが読んだことがあり、誠実な書き手という印象だったように思うし、圭子ファンとしては、いくつもの彼女の謎が解かれたような気がして本当に読んで良かったと思うのだが、家族としたら微妙な思いなのだろう、それはそれで理解できる。沢木の言葉を信じるなら、彼は当時、草稿を彼女に見せて出版の了解も取り付けていたということだが、娘がデビューした後では、もしかしたら承知しなかったかも知れない(連絡が取れなかったということだが)。

ただ、沢木が彼女の死後、ヒカルがブログに挙げた母親の死について、精神を病んで云々という説明にどうしても違和感を覚え、いや彼女はこんなにも真っすぐで輝いていた人だったんだよと知らしめたかった、というのもとてもよく分かる。正直、田原のDVDを見ても、この人が本当に「精神を病んで」いたのかなぁ…と少し疑問に思えたから。勿論、沢木のインタビューの中でも、時にはヒステリー状態になって物を壊したりすることを話したりしているところもあり、それが徐々に昂じていったとも考えられる。子供の頃の家庭環境のトラウマが悪いほうに出たのかも知れず、家族しか知らないこともたくさんあろう。また、ヒカルの側としては、あれこれ憶測されるよりも精神の病と言っておけば…というと言葉は悪いが、世間をとりあえず黙らせるにはそう言うしかなかったのかも知れない。また、そうでも思わなければ、自分達が救われないということも少しはあったのかも知れない。

いずれにしろ、ヒカル父子には申し訳ないが、フジ圭子の人となりが表れたインタビューであることは間違いなく、増々冥福を祈らずにはいられない。合掌。