坂本龍一のソロコンサートに

行って来た。このあいだ一緒にカラオケに行った元同僚から誘われていたのだ。しかし他にも行きたい舞台などもあり、あまり気が進まないままに曖昧な返事をしていたら、後日、すでにチケットを買ったというメールが来た。無駄にするのも悪いと思い、行くことにした。

彼の演奏を初めて聴いたのはKYLYNバンドだったと思う。決して好きなタイプの音楽ではなかったのに、いつの間にかメロディが耳に残っているので、YMOがあれだけヒットしたのも充分頷けた。それから、アカデミー賞だかグラミー賞だかの直後に新宿PIT-INN(ジャズライブハウス)で、あれは確か渡辺香津美のライブだったと思うがシークレットゲストで来ていて、観客にもオスカー像を見せてくれた。勿論、矢野顕子大貫妙子のアルバムでのバックなどでもお馴染だったし、徐々に好きなミュージシャンの一人になっていった。「シェルタリングスカイ」の時はべルトリッチが監督だというので期待して、サウンドトラックを先に聴いた。最初にテーマ曲を聴いた時は、なにこれキース・ジャレットの弾いていた愛のなんちゃらという曲のパクリじゃないの?と思ったのだけれど、全編通して聴くと素晴らしくて、あとから見た映画が色あせて見えたほどだった。

でも、今は坂本聴く気分じゃないんだよねぇ、ましてソロか…と、いささか浮かない気持ちで出掛けて行った。待ち合わせの場所で初めてチケット代聞いたら、8400円だと言うので正直アタマに来た。まぁ、それまで何も聞かなかった自分も悪いが、ソロコンでその値段はないでしょう。歌舞伎だってオペラだって一万円で見られる席は幾らでもあるし、たしかユンディ・リキーシンだってそんなもんだったと思う。嵐なら、6500円ぐらいじゃなかったっけ?あまりに腹が立ったので、演奏が始まる前からアンケートに「一体ナニ様のつもりだ!」と書き込んだくらいだ(笑)。

演奏の始まりはブライアン・イーノ風で、静謐な感じ。彼のピアノに対峙して自動ピアノが配され、二台のピアノのための曲が弾かれ、スクリーンには抽象的なデザインアートが流れるという具合である。前にも書いたが、ソロピアノというのはどうしても奏者一人の頭なり感覚だけで創り上げて行くので往々にして独善的に聴こえ、「はいはい、お説ごもっとも!」的な受け取り方しかできないことがある。この日も最初はそんな感じで、会場の拍手もあまり熱のこもったものではなかった。だけど、彼の曲はCMにもよく使われているので耳馴染みなものも多く、やっぱりよく出来てる曲だなぁと思いながら聴いて行った。

中にはとても奏力を要するものもあり、矢野顕子はピアノ上手だけれど坂本は下手、という私の固定観念は覆された。古い曲も、とても進化して演奏されていたのはさすがだった。段々、8400円は決して高くないなと思えてきた。聴衆の拍手も、曲が進むにつれて力強く熱いものに変化しているのがよく分かった。私自身の拍手もそうだったし。アンコールも何曲もやった。そうそう、途中、一曲だけケータイでの撮影を許可した場面があって、会場中からシャッター音が聞こえていたのだけれど、彼も言っていたがケータイの灯りがとても綺麗で、蛍のように幻想的なのだった。

ロピアノというと、ジャズなんかでは徐々に熱を帯びてきて激しい演奏になるのがお決まりだけれど、彼の場合は終始穏やかだった。勿論、一台が自動ピアノだからということもあるのだろうけれど、それが音楽を妙に激昂させないために非常に役立っていた。

まぁアンビェントということで、会場の外ではCDケースを回収しますとかエコ関連のことをごちゃごちゃ展示してあるのは辟易したけれども。

コンサートが終わるまで夕食を取っていなかったので、「スマイル」に間に合わないのが気になりながらも、地下の鮨屋で久し振りに廻らない鮨を食べた。だけど、いつ食べても美味いんだかマズいんだか分からない鮨なんだよねぇ。新鮮なハズなのにネタの下拵えが悪いのかな。

家に着いたら「スマイル」の前半はもう終わっていた。見始めた時は潤くんがあまり集中して演技していないように感じて、こりゃ駄目だなぁと思ったのだけれど、最後の涙の場面では訴えたいことがよく伝わってきて、良かったと思う。今後に期待ですね。思ったより雜そうなドラマだったけど。